「数年前から特定口座で積み立ててきた投資信託が、今では評価額300万円。含み益も50万円ある。NISAなら運用益が非課税になると聞くけれど、今から移した方がよいのだろうか」
このように迷う会社員は少なくありません。ただし、特定口座の商品をそのままNISA口座へ移すことは、原則としてできません。いったん特定口座で売却し、NISA口座で買い直す必要があります。
その際は、売却益にかかる税金、使えるNISA枠、保有商品の内容などをまとめて比べることが大切です。本記事では、特定口座からNISAへの買い直しを検討する判断軸を、具体的な数字を使ってやさしく整理します。
特定口座の商品はNISAへ直接移せない
特定口座とNISA口座は、税金の扱いが異なる別の口座です。すでに特定口座で保有している株式や投資信託について、帳簿上の置き場所だけをNISAへ変更することはできません。
NISAで保有し直す場合の基本的な流れは、次のとおりです。
- 特定口座の商品を売却する
- 売却代金を受け取る
- NISA口座で同じ商品、または別の商品を購入する
このため、「移す」というよりも「売って、新たに買う」と考えた方が実態に近いでしょう。口座ごとの基本的な違いから確認したい方は、特定口座・一般口座・NISA口座の違いとは?会社員向けの選び方をやさしく解説も参考になります。

買い直す前に比較したい5つの判断軸
1.売却によって確定する利益と税負担
特定口座で含み益がある商品を売却すると、その利益が確定し、原則として課税の対象になります。含み益とは、まだ売却していない段階での「値上がり分」です。
たとえば、取得額250万円の商品が300万円になっていれば、含み益は50万円です。あくまで一般的な仮定として、税負担を利益の約2割相当と単純化すると、税金はおよそ10万円、手元に残る売却代金は約290万円となります。
NISAへ買い直せば将来の利益を非課税にできますが、すでに発生している含み益への課税を取り消せるわけではありません。「今払う可能性がある税金」と「今後得られるかもしれない非課税メリット」を分けて考えましょう。
2.今後どのくらい長く保有する予定か
NISAのメリットが生きやすいのは、買い直した商品を長く保有し、その後に値上がりや分配金が生じた場合です。近いうちに住宅購入や教育費のために取り崩す予定なら、買い直してから運用できる期間は短くなります。
反対に、老後資金として10年、20年と保有する予定であれば、将来の利益を非課税にできる期間も長くなります。ただし、長期保有すれば必ず利益が出るわけではありません。運用期間は、非課税メリットの大きさを保証するものではなく、判断材料の一つです。
3.その年のNISA枠を何に使うか
特定口座から買い直す商品も、NISAの年間投資枠を使います。評価額300万円の商品を売却しても、その全額を同じ年にNISAで買えるとは限りません。利用できる枠や商品の対象区分を確認する必要があります。
また、毎月の給与から新しく積み立てたい人は、買い直しに枠を使いすぎると、新規積立に回せる余地が小さくなります。
限られた枠は、次のどちらに使うと家計全体の方針に合うかを比べましょう。
- 特定口座で保有している資産の買い直し
- 給与や預金からの新規投資
その年に使わなかった年間投資枠を、翌年の年間投資枠に上乗せできるとは限らない点にも注意が必要です。NISAの年間非課税枠を使い切れなかったらどうなる?繰越の有無と翌年の考え方も併せて確認しておきましょう。
4.今の商品を今後も持ち続けたいか
買い直しを検討する前に、その商品自体が現在の投資方針に合っているかを確認します。コストが高い、値動きが想定以上に大きい、資産や地域が偏っているといった問題があるなら、税金だけを理由に同じ商品を買い直す必要はありません。
一方、十分に分散され、保有コストも納得でき、今後も長期保有したい商品なら、NISAでの保有を検討しやすくなります。口座の有利さより、何を保有するかの方が運用結果に大きく影響する場合もあります。
商品を見直す際は、NISAの投資先はどう選ぶ?会社員が比較したいコスト・資産クラス・地域・リスクの判断軸が判断の助けになります。
5.売却から買い直しまでのコストと値動き
売買手数料や為替に関する費用などが発生する商品では、そのコストも確認しましょう。金額が小さく見えても、複数の商品を何度も売買すれば負担が積み重なります。
さらに、売却注文と購入注文の成立時点がずれると、その間に価格が上昇することがあります。売却時には300万円だった商品が、買い直す時点で305万円になれば、同じ数量を買えない可能性があります。反対に価格が下がる場合もありますが、都合よく予測することはできません。
含み益50万円なら、買い直すべき?3つの例で整理
例1.含み益が大きく、NISA枠にも余裕がない
取得額250万円、評価額300万円、含み益50万円とします。売却すれば一定の税負担が発生し、今年のNISA枠は新規積立でほぼ使う予定です。
この場合、無理に全額を売る必要性は高くありません。特定口座の商品はそのまま保有し、今後の積立だけをNISAで行う方法があります。含み益が大きいほど移動を急ぎたくなりますが、売却時の税負担と枠の使い道を先に確認しましょう。
例2.含み益が小さく、長期保有する予定
取得額100万円、評価額105万円、含み益5万円という例です。老後資金として今後15年以上保有する予定で、NISA枠にも余裕があるとします。
売却時の税負担が比較的小さく、今後も同じ商品を長く持つなら、買い直しを検討しやすい場面です。ただし、将来の値上がりは保証されないため、「必ず得になる」とまではいえません。
例3.含み損が出ている
取得額100万円、評価額90万円なら、10万円の含み損です。売却時に利益は出ていませんが、特定口座の損失は、一定の条件のもとで他の上場株式等の利益などと損益通算できる場合があります。
一方、NISA口座で生じた損失は、課税口座の利益との損益通算に使えないのが基本です。含み損の商品を買い直す場合は、税務上の扱いに加えて「値下がりしても持ち続けたい商品か」を改めて考えましょう。

迷ったときの判断手順
一度に全額を移そうとせず、次の順番で整理すると判断しやすくなります。
- 取得額、評価額、含み益または含み損を確認する
- 売却時の税金、手数料、為替関連費用を試算する
- 今年利用できるNISA枠を確認する
- 新規積立と買い直しのどちらを優先するか決める
- 商品が現在の運用目的に合っているか点検する
- 全額、一部、見送りの3案を比べる
全額を一度に売却する以外に、毎年NISA枠の範囲で一部ずつ買い直す方法もあります。また、特定口座はそのまま残し、新しいお金だけNISAへ入れる選択も合理的です。
本記事は執筆時点の一般的な制度に基づく説明であり、最新の制度内容は金融庁や各金融機関の公式情報でご確認ください。税金の扱いは取引内容や申告状況によって異なるため、個別の判断が難しい場合は税務の専門家にもご相談ください。
よくある質問
Q1.特定口座の商品を売らずにNISAへ移管できますか?
原則としてできません。NISAで保有したい場合は、特定口座の商品を売却し、NISA口座で新たに購入します。ただし、その商品がNISAの対象であること、利用可能な年間投資枠があることなどの確認が必要です。
Q2.含み益が大きくなる前に、すぐ買い直した方がよいですか?
含み益が小さい段階は売却時の税負担を抑えやすい面がありますが、それだけで急ぐ必要はありません。保有期間、NISA枠の使い道、商品の適合性、生活資金への影響を含めて判断します。売却と買い直しの間に価格が動く可能性にも注意しましょう。
まとめ
特定口座の商品は、原則としてそのままNISAへ移せず、売却と買い直しが必要です。
含み益への税負担、売買コスト、運用予定期間、NISA枠の使い道を比較しましょう。
全額を急いで移すだけでなく、一部ずつ買い直す方法や、新規積立だけをNISAで行う方法もあります。
口座の違いだけで決めず、今後も保有したい商品かどうかを軸に判断することが大切です。



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