「あと数年働いてから辞めたほうが、退職金の手取りは増えるのだろうか」。転職や早期退職を考え始めると、退職金そのものの金額だけでなく、税金も気になります。
退職金には、長く働いた人ほど税負担が軽くなりやすい「退職所得控除」という仕組みがあります。そのため、同じ1,200万円の退職金でも、勤続年数が20年か25年かによって、税金の計算対象となる金額が大きく変わる場合があります。
ただし、「控除が増えるまで退職を待つべき」と単純には決められません。転職後の給与、退職金制度、受け取り方なども含めて判断する必要があります。この記事では、退職時期を考える会社員が確認したいポイントを、仮の数字を使って整理します。
退職金は給与と分けて税金を計算するのが基本
会社から毎月受け取る給与には、給与所得として所得税や住民税がかかります。一方、退職によって一時金として受け取る退職金は、一般に「退職所得」として給与とは分けて税額を計算します。
退職金は長年の勤務に対するまとめ払いであり、退職後の生活資金にもなるため、受取額のすべてにそのまま課税されるわけではありません。まず退職所得控除を差し引き、一定の要件に該当する通常のケースでは、残った金額をさらに圧縮して課税対象を求める考え方が採られています。
イメージとしては、次の順番です。
- 会社の規程から退職金の支給額を確認する
- 勤続年数を基に退職所得控除を考える
- 退職金から控除額を差し引く
- 制度上の調整をした金額に対して税額を計算する
給与の税金の基本も確認したい方は、所得税の仕組みとは?給与天引きと累進課税、額面・手取りの違いをやさしく解説も参考にしてください。

勤続年数が長いほど退職所得控除は増えやすい
一定の勤続年数を超えると増え方が変わる
退職所得控除は、基本的に勤続年数が長いほど大きくなる仕組みです。また、一定の勤続年数を超えると、1年当たりの控除の増え方が大きくなる設計が一般的です。
ここでは仕組みを理解するため、勤続20年までは1年につき40万円、20年を超えた部分は1年につき70万円として計算するモデルを使います。これはあくまで一般的な制度を単純化した仮の例であり、実際に適用される控除額を保証するものではありません。
- 勤続10年の例:40万円×10年=控除額400万円
- 勤続20年の例:40万円×20年=控除額800万円
- 勤続25年の例:800万円+70万円×5年=控除額1,150万円
このモデルでは、勤続20年と25年で控除額に350万円の差が生まれます。20年を超えた後の5年間は控除の増え方が大きいため、退職時期による違いも目立ちます。
退職金1,200万円なら計算対象はどう変わる?
退職金を1,200万円と仮定して比べてみましょう。勤続20年の控除額を800万円とすると、差額は400万円です。一方、勤続25年の控除額を1,150万円とすると、差額は50万円になります。
仮に、控除後の差額の2分の1を課税対象とする通常の計算方法が使えるケースなら、勤続20年では200万円、勤続25年では25万円が税額計算の土台になるイメージです。実際の税額は所得税の税率、住民税、退職金の種類などによって異なりますが、勤続年数が手取りに影響する理由はつかみやすいでしょう。
反対に、退職金が退職所得控除の範囲内に収まるケースでは、退職所得に対する税負担が発生しないこともあります。「退職金が多いか少ないか」だけではなく、「自分の勤続年数に対応する控除と比べてどうか」を見ることが大切です。
転職・早期退職の判断で確認したい4つのポイント
1.税法上の勤続年数を確認する
最初に確認したいのは、入社日と退職予定日です。勤続年数の計算では、1年未満の端数の扱いなど、普段の感覚とは異なるルールが使われることがあります。休職期間、グループ会社への転籍、合併前の勤務期間などがある人は、会社がどの期間を勤続年数として扱うかも人事・給与担当者に確認しましょう。
退職日を数週間ずらしただけで、制度上の勤続年数が変わる可能性もあります。ただし、退職金規程上の勤続年数と税法上の勤続年数が必ず一致するとは限りません。両方を分けて確認する必要があります。
2.退職金がいくら増減するかを確認する
控除額だけを見て退職時期を決めるのは危険です。会社によっては、勤続年数、役職、退職理由、年齢などで支給額が変わります。自己都合退職と会社都合退職で計算方法が異なるケースもあります。
たとえば、1年待つことで控除が増えても、希望する転職先を逃して年収が下がれば、家計全体では不利になるかもしれません。反対に、退職金の支給率が節目の年に上がる会社なら、数か月待つ効果が大きい可能性があります。
退職金規程、見込額の試算、退職予定日ごとの支給額を確認し、「控除の増加額」と「退職金自体の増加額」を分けて比べましょう。
3.一時金か年金形式かを確認する
企業の制度によっては、退職給付を一時金でまとめて受け取る方法と、年金形式で分けて受け取る方法を選べる場合があります。一時金は退職所得として扱われるのが一般的ですが、年金形式では別の所得区分や控除が関係することがあります。
判断するときは、税金だけでなく、退職後の生活費、他の年金収入、健康保険料や住民税への影響、資金を自分で管理できるかも考えます。「一時金なら必ず得」「分割なら必ず節税」とはいえません。
4.ほかの退職一時金との重なりを確認する
同じ年や近い時期に、複数の勤務先から退職金を受け取る場合や、個人型の年金制度などから一時金を受け取る場合は注意が必要です。過去または今回の勤続期間が重なっていると、退職所得控除をそれぞれ独立して満額使えるとは限りません。
前職の退職金を受け取った時期、今回の退職予定日、各制度の加入期間と受取予定日を時系列に並べましょう。受け取り方を検討する際は、転職するとiDeCoの掛金や口座はどうなる?退職前後の手続きを会社員向けに解説も確認しておくと安心です。
退職を決める前に作りたい比較表
退職予定日を一つに絞る前に、少なくとも2案を比較してみましょう。たとえば「今年12月に退職する案」と「翌年4月まで働く案」について、次の項目を書き出します。
- 税法上の勤続年数
- 会社規程による退職金の見込額
- 退職所得控除の概算
- 一時金と年金形式の受取額
- 転職後の給与と入社可能日
- 退職後に必要な税金・社会保険の手続き
税金が数万円軽くなっても、無収入期間が長くなれば手元資金は減ります。反対に、控除や退職金の支給率が変わる節目が近いなら、退職日を調整する価値があるかもしれません。税額だけでなく、退職から転職後までの手取り総額で比べることが重要です。
退職後の手続きも含めて整理したい方は、年内に転職先が決まらない退職者へ|年末までに確認したい税金・保険の手続きも参考にしてください。

手続きで見落としたくない申告書
勤務先から退職金を受け取る際は、一般に「退職所得の受給に関する申告書」の提出を求められます。適切に提出していれば、勤務先が勤続年数などに基づいて源泉徴収を行い、通常は退職金だけを理由とした確定申告が不要になるケースが多いです。
提出していない場合は、受取時に本来の計算とは異なる形で多めに源泉徴収され、後から確定申告による精算が必要になることがあります。書類を受け取ったら放置せず、記載した勤続年数や過去の退職金の有無を確認しましょう。
本記事は執筆時点の一般的な制度に基づく説明であり、最新の税制・控除額は国税庁など公的機関の公式情報でご確認ください。短期勤続、役員としての勤務、複数の退職金、障害を理由とする退職などでは計算が異なる場合があります。判断が難しいときは、勤務先の担当部署や税務署、税理士などに確認してください。
退職金の税金に関するFAQ
Q1.勤続20年になるまで退職を待ったほうが得ですか?
必ずしも得とは限りません。勤続年数が増えることで控除額や会社からの退職金が増える可能性はありますが、転職先の給与、入社時期、賞与、無収入期間も手取りに影響します。退職日を変えた場合の退職金と控除の概算を会社に確認し、転職後を含む収入総額で比較しましょう。
Q2.退職金を受け取ったら確定申告が必要ですか?
勤務先に必要な申告書を提出し、適切に源泉徴収されていれば、一般には退職金だけを理由とした確定申告が不要なケースが多いです。ただし、申告書を提出していない場合、複数の退職金がある場合、ほかの理由で確定申告をする場合などは扱いが変わることがあります。退職所得の源泉徴収票を保管し、不明点は公的機関や専門家に確認しましょう。
まとめ
退職金の手取りは、支給額だけでなく勤続年数に応じた退職所得控除によって変わります。
退職時期を決める前に、勤続年数、会社の退職金規程、一時金・年金形式の違い、ほかの退職一時金との重なりを確認しましょう。
控除額だけで結論を出さず、転職後の給与や無収入期間を含む手取り総額で比べることが大切です。
具体的な計算は最新の公式情報を確認し、複雑なケースでは勤務先や税務署、税理士などへ相談しましょう。



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