住宅ローンの繰り上げ返済と投資はどっちが得?過去50年のデータと退職前シミュレーション

資産形成

住宅ローンの繰り上げ返済は利息を確実に減らせますが、投資の成果は経済環境で変わります。本記事では、過去50年を3つの局面に分け、「完済まで残り5年」「完済まで残り10年」で完済する場合と、同額を運用する場合を比較します。

試算は将来の成果を保証するものではありません。制度や金利の最新情報は、金融機関や公的機関の公式情報をご確認ください。

繰り上げ返済と投資では得られるものが違う

繰り上げ返済では元本を前倒しで返し、将来の利息と返済義務を減らします。効果を計算しやすい反面、返したお金は原則として手元へ戻せません。

投資はローンを残して資金の成長を狙う方法です。ローン金利を上回る可能性がある一方、必要な時期に相場が下落すれば、元本割れでの売却もあり得ます。つまり、繰り上げ返済は「確実性」、投資は「期待値」を重視する選択です。

私が繰り上げ返済をしない理由

私は現時点で、基本的に繰り上げ返済をしない方針です。比較的低金利の住宅ローンを維持し、新NISAでオルカンやS&P500などを長期保有するほうが、高いリターンを期待できると考えているためです。リスクを抑えるなら、個人向け国債なども候補になります。

ただし、低金利で借りて利回りの高い国債を買えば必ず利益が出るわけではありません。変動金利は上昇する可能性があり、国債も満期前の売却では価格が変動します。利子には約20.315%の税金もかかります。

退職前後も同じ方針を続けるとは限りません。収入、資産、ローン残高が変われば、負債を残すリスクも変わるからです。

過去50年の金利と株式はどのように動いたか

政策金利・固定金利・10年国債利回り・日経225の年率リターンの50年推移と3つの経済局面

グラフは、政策金利、住宅ローンの固定金利、10年国債利回り、日経225の直近10年間の年率リターンについて、公開資料の代表値を結んだ推移イメージです。

10年国債利回りは1990年8.22%から、1998年0.78%、2003年0.54%、2016年マイナス0.28%まで低下しました。日経225の直近10年リターンは1990年12.9%でしたが、2000年マイナス5.3%、2010年マイナス2.9%です。株式は大きく成長することもあれば、10年間保有してもマイナスになることがあります。

フェーズ1(1975〜1990年、高金利・高成長期)

金利と経済成長率がともに高く、繰り上げ返済の効果も、株式や国債の収益も大きくなり得た時期です。

フェーズ2(1990〜2013年、低成長・デフレ・ゼロ金利期)

金利が低下する一方、株式を長期間保有しても元本割れするケースがありました。

フェーズ3(2013〜2026年、金融緩和後の回復・金利上昇期)

金融緩和後に株式市場が回復し、その後は金利も上昇へ転じました。低金利のローンを維持して投資した人が有利になりやすい局面です。

この区分は比較のための目安です。退職時にどの局面を迎えるかは事前にわかりません。

退職を見据えた残り5年・残り10年の完済シミュレーション

退職前後には、まとまった資金で残債をなくす選択肢があります。そこで「完済まで残り5年」「完済まで残り10年」の時点で、全額返済する場合と、同額を完済予定時まで運用する場合を比べます。

シミュレーションの前提条件

手数料や住宅ローン控除などを簡略化したモデルです。投資の利益には20.315%の税金(元本割れの場合は非課税)を考慮しています。

項目 設定
借入額 3,000万円(モデルケース、実際の借入額ではありません)
返済期間 35年
住宅ローン金利 年1.5%固定(すべてのパターンで共通の前提)
返済方式 元利均等返済
想定シーン 退職を迎え、退職金などでまとまった資金を得たタイミングで、ローンの残り期間が5年、または10年の時点
投資の税金 利益に対して20.315%課税(元本割れの場合は課税なし)

3つのフェーズで想定する運用利回り

過去の実測値を参考に、局面ごとの国債と株式の想定利回りを設定します。年ごとの値動きを再現したバックテストではありません。

フェーズ 国債利回り想定 株式リターン想定 想定の根拠
フェーズ1
高金利・高成長期
年6.0% 年8.0% 10年国債利回り(1990年8.22%)を踏まえ保守的に設定。株式は日経225の1980〜1990年の実測CAGR(+12.9%)より抑えめに設定
フェーズ2
低成長・デフレ・ゼロ金利期
年1.0% 年−3.0% 10年国債利回り(1998年0.78%、2003年0.54%)を踏まえて設定。株式は日経225の1990〜2000年実測(−5.3%)と2000〜2010年実測(−2.9%)の間で設定
フェーズ3
金融緩和後の回復・金利上昇期
年1.0% 年10.0% 10年国債利回り(2016〜2019年のマイナス金利期から2026年2.84%への変化)を平均的に踏まえて設定。株式は日経225の2010〜2020年実測(+10.4%)を踏まえて設定

全額繰り上げ返済で減らせる利息

繰り上げ返済額は利益ではなく、完済のために支払う元本です。同じローン条件なら、経済局面によって利息軽減額は変わりません。

完済のタイミング 繰り上げ返済額
(その時点の残高)
不要になる
返済期間
利息軽減額
残り5年時点 531万円 60か月分 約20万円
残り10年時点 1,023万円 120か月分 約79万円

同じ金額を投資した場合の結果

完済資金を運用した場合の到達額と、元本からの増減を比較します。

完済の
タイミング
フェーズ 国債で運用した場合 株式で運用した場合
到達額(税引後利益) 利息軽減額
との差
到達額(税引後利益) 利息軽減額
との差
残り5年時点
(531万円を5年間運用)
フェーズ1 674万円
(+143万円)
+123万円
(+23.1%)
729万円
(+198万円)
+178万円
(+33.5%)
フェーズ2 552万円
(+22万円)
+1万円
(+0.2%)
456万円
(−75万円)
−95万円
(−18.0%)
フェーズ3 552万円
(+22万円)
+1万円
(+0.2%)
789万円
(+258万円)
+238万円
(+44.8%)
残り10年時点
(1,023万円を10年間運用)
フェーズ1 1,668万円
(+645万円)
+565万円
(+55.3%)
1,968万円
(+945万円)
+865万円
(+84.6%)
フェーズ2 1,108万円
(+85万円)
+6万円
(+0.6%)
754万円
(−269万円)
−348万円
(−34.0%)
フェーズ3 1,108万円
(+85万円)
+6万円
(+0.6%)
2,322万円
(+1,299万円)
+1,220万円
(+119.2%)

※利益には20.315%課税(元本割れの場合は課税なし)。「利息軽減額との差」は、税引後の投資利益から繰り上げ返済による利息軽減額(残り5年時点:約20万円、残り10年時点:約79万円)を差し引いた金額です。カッコ内の%は、この差額を投資元本(531万円・1,023万円)で割った比率です。プラスなら投資の方が有利、マイナスなら繰り上げ返済の方が有利だったことを示します。

シミュレーション結果から考える繰り上げ返済の価値

ローン終盤では利息軽減額が小さい

残り5年で全額返済するには531万円が必要で、減らせる利息は約20万円です。残り10年では1,023万円を返済し、約79万円を減らせます。返済終盤は元本と利息がすでに減っているため、支払額に対する利息軽減額は小さくなります。

ただし、得られるのは利息軽減だけではありません。ローン残高と毎月の返済義務をなくせることにも価値があります。

投資の結果は経済局面で変わる

フェーズ1とフェーズ3では、投資利益が利息軽減額を大きく上回ります。一方、フェーズ2の株式運用は、残り5年で−75万円、残り10年で−269万円です。ローンが残ったまま資産も減る結果となります。

長期投資や分散投資は値動きの影響を抑える助けになりますが、利益を保証しません。低迷が続けば運用期間が長いほど損失が広がる場合もあります。

退職前後では期待値だけで決められない

給与収入があれば相場の回復を待ちやすいものの、退職前後は収入が変化します。資産が値下がりしてもローン返済は続くため、生活費のために売却を迫られる可能性があります。

繰り上げ返済は毎月の支出をなくし、変動金利なら金利上昇の影響も避けられます。私なら、期待リターンだけでなく、下落中に資産を売らず返済を続けられるかで判断します。

ローンを残す選択にも合理性がある

退職後も返済でき、相場下落時に売却せずに済むなら、ローンを残して投資する選択は合理的です。手元資金を保てるため、医療、介護、住宅修繕などにも対応しやすくなります。

二者択一にせず、一部を返済して残りを現金や投資で保有すれば、確実性と期待値の中間も選べます。

将来のフェーズは予測できない

フェーズ1・3に近ければ投資、フェーズ2に近ければ繰り上げ返済が有利になりやすいものの、将来の局面はわかりません。正解を予測するより、値下がりや返済に家計が耐えられる範囲で選ぶことが重要です。

その他の確認ポイント

緊急資金は別に確保する

返済や投資は、病気や休職などに備える現金を確保した後の余裕資金で行います。詳しくは投資を始める前に考えたい緊急資金|目安・置き場所・貯める順番でも解説しています。

住宅ローン控除への影響を確認する

控除期間中は年末残高や返済期間への影響を確認します。詳しくは住宅ローン控除とは?いくら戻るか計算例でわかる会社員向けの仕組みと注意点をご確認ください。

資産全体の配分も確認する

現金、株式、債券を含む家計全体でリスクを判断します。考え方は資産配分(アセットアロケーション)の決め方|運用期間別に見る株式・債券・現金の配分パターンも参考にしてください。

よくある質問

Q1. 利息軽減額が小さくても繰り上げ返済する意味はありますか?

あります。利息だけでなく、返済義務と金利上昇の影響をなくし、退職後の家計をシンプルにできます。

Q2. 退職金が入ったら全額返済すべきですか?

一律に返済する必要はありません。緊急資金、退職後の収入、資産下落への耐性を確認し、一部返済も含めて判断します。

Q3. 長期投資なら元本割れを避けられますか?

長期・分散投資でも元本割れは避けられません。必要な時期に売却せずに済む資金計画が重要です。

まとめ

ローン終盤の繰り上げ返済は利息軽減額が小さい一方、返済義務を確実になくせます。投資はフェーズ1・3で大きな利益を期待できますが、フェーズ2のように元本割れする可能性があります。

将来がどの局面に近づくかはわかりません。確実性と期待値のどちらを重視するかを整理し、相場が下落しても生活が揺らがない範囲で選ぶことが、住宅ローンと資産形成を両立させる判断基準です。

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