「106万円を超えると手取りが崖のように落ち込む」——扶養の壁とは?103万円・106万円・130万円で何が変わるの?でこの崖を試算しましたが、実は崖そのものを埋める「解決策」がすでに用意されています。今回はその仕組みと、実際どこまで頼れるのかを整理します。
※本記事は執筆時点の一般的な制度に基づく説明です。手当の導入は勤務先の任意判断によるため、実際に利用できるかは勤務先に確認してください。最新情報は厚生労働省・日本年金機構などの公式情報でご確認ください。
崖の大きさをおさらい
前回試算した、妻の年収別の手取りと、夫(年収500万円固定)を合わせた世帯手取りです。106万円で社会保険料が発生すると、世帯手取りも一時的に下がります。
| 妻の年収 | 妻の手取り | 世帯手取り(夫+妻) |
|---|---|---|
| 100万円 | 100.0万円 | 499.0万円 |
| 106万円 | 90.6万円 | 489.6万円 |
| 120万円 | 102.1万円 | 501.1万円 |
| 130万円 | 110.7万円 | 509.7万円 |
| 160万円 | 134.3万円 | 533.3万円 |
| 220万円 | 180.0万円 | 573.8万円 |

100万円から106万円で、世帯手取りは約9.4万円下がります。この落ち込みを会社側の負担で穴埋めできる制度が「社会保険適用促進手当」です。
解決策1:社会保険適用促進手当とは
2023年9月、政府は「年収の壁・支援強化パッケージ」を発表し、2023年10月からその柱のひとつとして「社会保険適用促進手当」が始まりました。新たに社会保険に加入した従業員に会社が手当を支給すると、その手当分は給与計算上の標準報酬月額(社会保険料の算定基礎)に含めずに済みます。保険料が増えた分を手当で上乗せしても、その上乗せ自体には保険料がかからないため、手取りの落ち込みを会社側の負担で穴埋めできる仕組みです。
算入除外できる上限は「新たに発生した本人負担分の保険料相当額」。対象は標準報酬月額10.4万円以下(年収およそ125万円まで)の人に限られ、それ以上は対象外です。
手当があれば手取りはどう変わるか
上限まで支給された場合の試算です。手当は課税対象なので、住民税がわずかに増える点も反映しています。
| 妻の年収 | 社会保険料 | 手当支給額 | 手当込み住民税 | 手当なしの手取り | 手当ありの手取り |
|---|---|---|---|---|---|
| 106万円 | 15.4万円 | 15.4万円 | 0.5万円 | 90.6万円 | 105.5万円 |
| 110万円 | 16.0万円 | 16.0万円 | 0.5万円 | 94.0万円 | 109.5万円 |
| 115万円 | 16.7万円 | 16.7万円 | 0.5万円 | 98.3万円 | 114.5万円 |
| 120万円 | 17.4万円 | 17.4万円 | 0.8万円 | 102.1万円 | 119.2万円 |
| 125万円(上限) | 18.1万円 | 18.1万円 | 1.3万円 | 106.4万円 | 123.7万円 |
| 130万円(対象外) | 18.8万円 | 0万円 | 0.5万円 | 110.7万円 | 110.7万円 |

106万円時点で、手当なしなら約15万円落ち込む手取りが、手当ありなら住民税の増加分(0.5万円程度)だけで済みます。ただし見逃せないのは、125万円を超えた瞬間に手当が一気にゼロになることです。123.7万円あった手取りが130万円で110.7万円まで戻り、その差は約13万円。年収が5万円増えて手取りが13万円減るという、106万円の崖とそっくりの構造が上にスライドしただけです。手当は崖を「消す」のではなく「先送りする」制度と考えた方が実態に近いでしょう。
どれくらいの会社が導入しているか
経済同友会の2024年調査(対人接客業中心の43社対象、22社回答)では、活用(予定含む)している企業は31.8%にとどまりました。サンプルは会員企業中心で多くなく、大企業・中小企業別の公的統計は見当たりませんが、中小企業は社会保険適用拡大自体に資金繰りの不安を感じる経営者が多いという調査もあり、「導入企業が多数派」とは言えないのが実態に近そうです。
「任意」「最大2年」という2つの制約
- 会社にとっては任意:支給するかどうかは事業主の判断で、導入していない会社の方が多いとみられます。
- 最大2年間の時限措置:標準報酬月額からの除外は加入から最大2年間だけで、3年目以降は通常どおり保険料の算定対象です。
あくまで「崖を飛び越えるまでの一時的な踏み台」であり、恒久的に保険料が段階的に上がる仕組みではありません。
解決策2:130万円の壁にも緩和策がある
「130万円の壁」(家族の社会保険の扶養から外れる基準)にも、2023年10月から緩和策があります。残業増やシフト増など一時的な収入変動を勤務先が「事業主の証明書」で証明すれば、130万円を一時的に超えても扶養にとどまれます。ただし使えるのは原則連続2回までで、3回目以降は「恒常的な収入増」とみなされ扶養から外れます。昇給や正社員化など、そもそも一時的でない収入増は対象外です。
なぜ恒久的な段階制度にしないのか
社会保険は加入した瞬間に将来の年金額や傷病手当金・出産手当金といった給付を受ける権利が発生する制度です。保険料だけ段階的に上げて給付は変わらない、というのは筋が通らないため「加入する・しない」の二値になりやすいのです。また所得税は年末調整で事後精算できますが、社会保険料は毎月の給与天引きで完結させる必要があり、月ごとの按分計算は会社と年金機構双方に大きな改修負担を生みます。
DXで解決できる可能性はあるか

給与計算クラウド(freee、SmartHRなど)は複雑な計算を自動化できるようになってきましたが、日本年金機構・協会けんぽ側の基幹システムはレガシーな部分が残ります。2026年10月の改正も「月額賃金8.8万円」要件を撤廃し「週20時間以上」だけで判定する方向で、崖を段階化するより、手前の条件を減らして単純化する方が現実的な解決策として選ばれているようです。
自分の勤務先で使えるか確認する5つのポイント
- 勤務先が「社会保険適用促進手当」を導入しているか(任意のため人事・総務に確認)
- 自分の標準報酬月額が10.4万円以下(年収およそ125万円まで)に収まっているか
- 125万円を超える見込みがあるか(超えた瞬間に新たな崖が生じる)
- 社会保険に加入してから何年目か(最大2年間しか算定除外されない)
- 手当が終了する3年目以降、保険料負担がどう変わるか
手当が出ても崖がなくなるわけではなく、あくまで2年間・125万円までの仕組みです。だからといって、手当をもらえる範囲に年収を合わせにいく必要はないと思います。扶養の壁とは?103万円・106万円・130万円で何が変わるの?で書いたとおり、まずは家事・育児にかける時間と仕事にかける時間のバランスで働き方を決め、その結果たまたま社会保険適用促進手当の対象になったら「ラッキー」くらいの位置づけで、ありがたく使わせてもらうのが良いと思います。
社会保険適用促進手当に関するFAQ
Q1. 手当を受け取ると税金は増えませんか?
標準報酬月額からは除外されますが、所得税・住民税の課税対象からは除外されません。給与として課税される点に注意してください。
Q2. 勤務先が導入していない場合はどうすればいいですか?
導入企業は多数派とは言えないのが実態です。まず人事・総務に相談し、それでも導入されなければ、崖の手前で抑えるか飛び越えるかを検討しましょう。
Q3. 125万円を超えたらどうなりますか?
手当が算定除外の対象外になり、手取りは手当なしの水準まで一気に戻ります。125万円のすぐ上を狙うのではなく、106万円の崖と同じく「一気に飛び越える」か「手前で止める」かを考える必要があります。
まとめ
106万円の崖には「社会保険適用促進手当」という時限的な緩和策があり、上限(標準報酬月額10.4万円、年収およそ125万円)まで支給されれば崖はほぼ埋まります。ただし上限を超えた瞬間に手当はゼロになり、同じ崖が125万円に先送りされる点には注意が必要です。期間も最大2年間で、導入企業も多数派とは言えません。130万円の壁の「事業主の証明書」も連続2回までの制限があります。段階的な引き上げが実現しないのは、給付とセットの制度設計と行政システムの制約が背景です。働き方は手当の有無で決めるのではなく、まず家事・育児と仕事のバランスで決め、勤務先が手当を導入していればラッキーくらいの気持ちで、ありがたく使わせてもらうのが現実的だと思います。


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