「年収105万円から110万円に増やせば、手取りも5万円増える」と思っていたのに、社会保険へ加入すると、かえって使えるお金が減ることがあります。いわゆる「106万円の壁」で気になるのは、制度の名前よりも、結局いくら手取りが変わるのかではないでしょうか。
そこで本記事では、社会保険加入後の本人負担を給与のおおむね14~16%と仮定し、年収110万円・120万円・130万円の手取りを試算します。実際の負担額は、加入する健康保険、都道府県、年齢、標準報酬月額、勤務先の取り扱いなどによって異なるため、金額には幅を持たせています。
まず確認したい「106万円を1円超えたら加入」ではない
106万円の壁は、一般に短時間労働者が勤務先の健康保険・厚生年金へ加入する目安として使われてきた言葉です。ただし、年間収入が106万円を超えたという事実だけで、全員が直ちに加入するわけではありません。
加入の判定では、勤務先の規模、週の所定労働時間、雇用期間の見込み、学生かどうか、所定内賃金などを確認します。残業代や賞与を含む実際の年収と、加入判定に使う賃金の範囲が一致しないこともあります。
さらに、制度改正により、月額賃金を基準とする「106万円の壁」は撤廃され、週の所定労働時間を中心とした判定へ移行する予定です。したがって、これから働き方を決める人は「年収106万円以内か」だけでなく、「週20時間以上になるか」「勤務先が適用対象か」を人事・給与担当者へ確認することが大切です。
103万円・106万円・130万円の違いを整理したい場合は、扶養の壁とは?103万円・106万円・130万円で何が変わるのかも参考になります。

社会保険加入前後の手取りを計算する条件
今回は、配偶者の社会保険上の扶養に入り、勤務先での社会保険料負担がなかった人が、新たに健康保険と厚生年金へ加入するケースを想定します。
- 加入後の本人負担は、給与の14~16%で概算
- 40歳未満を想定し、介護保険料は含めない
- 所得税・住民税は個人差が大きいため、合計0~2万円程度の概算
- 配偶者側の税金や家族手当への影響は含めない
- 月収は年間を通じてほぼ一定と仮定
社会保険料は、単純に年収へ一定割合を掛けて決まるものではなく、「標準報酬月額」という給与の区分を基に計算されます。給与明細の見方まで確認したい人は、社会保険料はなぜ変わる?標準報酬月額と給与天引きの見方をやさしく解説をご覧ください。
なお、本記事は執筆時点の一般的な制度に基づく説明です。最新の保険料率や制度の詳細は、日本年金機構や協会けんぽなど公的機関の公式情報でご確認ください。
年収105万円から110万円になると手取りは約10万円減ることも
加入前の年収105万円
社会保険料の本人負担がなく、税負担を0~1万円程度とすると、手取りは約104万~105万円です。月平均では約8万7,000円となります。
加入後の年収110万円
社会保険料を年収の14~16%とすると、年間負担は約15万4,000~17万6,000円です。税金を0~1万円程度とした場合、手取りは約91万4,000~94万6,000円、月平均では約7万6,000~7万9,000円になります。
額面年収は5万円増えているのに、手取りは加入前より約9万~14万円減る計算です。「シフトを増やしたのに、毎月使えるお金が1万円近く減った」と感じる可能性があります。
これは106万円を超えた部分だけに保険料がかかるのではなく、加入後の給与を基に保険料が決まるためです。壁を少しだけ超える働き方では、額面の増加より社会保険料負担のほうが大きくなりやすい点に注意しましょう。
年収110万・120万・130万円の手取り比較
同じ条件で年収別に概算すると、次のようになります。
- 年収110万円:社会保険料約15万~18万円、手取り約91万~95万円
- 年収120万円:社会保険料約17万~19万円、手取り約99万~103万円
- 年収130万円:社会保険料約18万~21万円、手取り約107万~111万円
年収120万円まで増やしても、加入前の年収105万円と比べた手取りは、同程度か数万円少ない可能性があります。年収130万円前後まで働くと、ようやく加入前を上回るケースが見えてきます。
ただし、これは税金を簡略化した概算です。住民税は前年の所得を基に翌年度に負担するため、社会保険へ加入した年よりも、その翌年に手取りの減少を強く感じることがあります。給与明細では社会保険料だけでなく、所得税と住民税も分けて確認してください。
壁を超えて働くか判断する3つの基準
1.年収ではなく週の労働時間を確認する
制度改正後は、106万円という年間収入よりも週の所定労働時間が重要になります。繁忙期の残業を含めた実績ではなく、まず雇用契約書に書かれた勤務時間を確認しましょう。
2.少しだけ超えるのか、収入をしっかり増やせるのか
年収105万円から110万円程度へ増やすだけでは、短期的な手取りが減りやすくなります。壁を超えるなら、年収120万円台後半や130万円以上を目指せるか、時給アップや勤務時間の増加が継続できるかを検討したいところです。
無理に年収だけを増やす必要はありません。育児・介護との両立、通勤時間、体力、将来のキャリアも含めて、手取り1万円を増やすために何時間の勤務が必要かを比べましょう。
3.保険料を「損」だけで判断しない
社会保険へ加入すると目先の手取りは減りますが、厚生年金の加入期間と給与に応じて将来受け取る年金が上乗せされます。一定の条件を満たせば、病気やけがで働けないときの所得保障、出産で休むときの給付を受けられる可能性もあります。
一方で、配偶者の勤務先から家族手当や扶養手当が支給されている場合、自分の収入や社会保険加入によって手当が終了することがあります。これは法律で一律に決まるものではないため、配偶者の勤務先の規定も確認が必要です。
自分と似た年収でも手取りが違う理由を整理するなら、同じ年収なのに手取りが違うのはなぜ?会社員が節税で最初に確認する順番も役立ちます。

自分の手取りを確認する手順
- 雇用契約書で週の所定労働時間と月額賃金を確認する
- 勤務先へ社会保険の加入予定日を確認する
- 加入後の健康保険料・厚生年金保険料の見込みを聞く
- 配偶者の勤務先で家族手当の条件を確認する
- 今年だけでなく翌年度の住民税も含めて家計を試算する
最も確実なのは、勤務先の給与担当者に「月収をこの金額へ増やした場合、社会保険料控除後の支給見込みはいくらか」と確認する方法です。手取りだけでなく、勤務時間を増やした場合の時給換算額も比べると判断しやすくなります。
よくある質問
年収106万円を一時的に超えただけでも加入しますか?
年間の実収入だけで機械的に決まるわけではありません。雇用契約上の週の所定労働時間や月額賃金、雇用期間の見込み、勤務先の状況などで判断されます。一時的な残業代や賞与の扱いも目的によって異なるため、自己判断でシフトを減らす前に勤務先へ確認しましょう。
社会保険に加入したら必ず年収130万円以上まで働くべきですか?
必ずしもそうではありません。今回の概算では130万円前後が手取り回復の一つの目安ですが、実際の損益分岐点は保険料、税金、家族手当、年齢などで変わります。将来の年金や休業時の保障も含め、自分が無理なく続けられる勤務時間で判断してください。
まとめ
年収105万円から110万円へ増えて社会保険に加入すると、額面は増えても手取りが年間約9万~14万円減るケースがあります。
年収120万円では加入前と同程度、130万円前後では手取りが上回る可能性があるものの、実際の金額は保険料や税金によって変わります。
今後は106万円という数字だけでなく、週の所定労働時間、勤務先の適用状況、家族手当の条件を確認することが重要です。
短期的な手取り減少と、厚生年金や休業時の保障を比べ、無理なく続けられる働き方を選びましょう。



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