社会保険料が上がる理由は年金ではない?5年分のデータで見る本当の内訳

制度・税金

「社会保険料の負担が年々重くなっている気がする」——そう感じている方は多いと思います。社会保険は何を守ってくれる?会社員・公務員・自営業で異なる5つの保障で社会保険が何を賄っているかを整理しましたが、今回は「なぜ社会保険料が上がっていると感じるのか」を、公的な5年分のデータで検証します。私は最初、少子高齢化で年金の負担が膨らんでいるのだと思っていましたが、実際のデータを見ると予想と違う実態が見えてきました。

※本記事は国立社会保障・人口問題研究所「社会保障費用統計」、協会けんぽ、総務省統計局などの公表データに基づく説明です。数値は今後の統計改定により変わることがあります。

社会保障給付費は5年でどう変わったか

社会保障給付費(年金・医療・介護などの給付総額)の推移です。

年度 総額 年金(シェア) 医療(シェア) 福祉その他(シェア)
2019年度 123.9兆円 55.5兆円(44.7%) 40.7兆円(32.9%) 27.7兆円(22.4%)
2020年度 132.2兆円 55.6兆円(42.1%) 42.7兆円(32.3%) 33.9兆円(25.6%)
2021年度 138.8兆円 55.8兆円(40.2%) 47.4兆円(34.2%) 35.5兆円(25.6%)
2022年度 138.2兆円 55.8兆円(40.4%) 48.8兆円(35.3%) 33.6兆円(24.3%)
2023年度 135.5兆円 56.4兆円(41.6%) 45.6兆円(33.6%) 33.5兆円(24.7%)

(出所:国立社会保障・人口問題研究所「令和5年度社会保障費用統計」)

社会保障給付費の内訳(年金・医療・福祉その他)の積み上げ棒グラフ、2019年度から2023年度

伸びているのは「年金」ではなく「医療」と「介護」

私は少子高齢化というと真っ先に「年金の負担が増えている」と考えていましたが、データを見るとむしろ年金のシェアは2019年度の44.7%から2023年度の41.6%へ低下しています。絶対額も55.5兆円→56.4兆円とほぼ横ばいです。年金額の伸びを物価・賃金の伸びより抑える「マクロ経済スライド」という仕組みが効いているため、高齢者数が増えても給付総額は急には増えない構造になっています。

一方で、福祉その他に含まれる介護は、2019年度10.7兆円から2023年度11.6兆円へ、コロナ禍の影響を受けずに一貫して増加しています。医療は2021〜2022年にコロナ関連費用で急増した後、2023年はその反動で減少しましたが、平時の伸び自体は着実です。高齢化の影響は「年金」より「医療・介護」により強く表れている、というのが実データからの読み取りです。

では保険料率自体は上がっているのか

「給付が増えているなら保険料率も上がり続けているはず」と思いきや、こちらも意外な実態があります。

年度 健康保険料率
(協会けんぽ平均)
介護保険料率 厚生年金保険料率
2019年度 10.00% 1.73% 18.3%
2020年度 10.00% 1.79% 18.3%
2021年度 10.00% 1.80% 18.3%
2022年度 10.00% 1.64% 18.3%
2023年度 10.00% 1.82% 18.3%
2024年度 10.00% 1.60% 18.3%
2025年度 10.00% 1.59% 18.3%
2026年度※ 9.90% 1.62% 18.3%

※2026年度の健康保険料率(協会けんぽ平均)は34年ぶりの引き下げです。

厚生年金保険料率は2017年度に18.3%へ達して以降、完全に固定されています。健康保険料率(協会けんぽ平均)も2012年度から2025年度まで10.00%でずっと据え置かれ、2026年度はむしろ9.90%へ引き下げが決まっています。介護保険料率だけは毎年見直されますが、1.6%台〜1.8%台の間で上下しており、一直線に上がり続けているわけではありません。「保険料率」という数字だけを見れば、この5年間はほぼ横ばい、もしくは一部下がっている、というのが実態です。

それでも負担が重く感じる理由

保険料率がほぼ横ばいなのに、なぜ「上がっている」と感じるのでしょうか。データから考えられる理由は3つあります。

  • 賃金の上昇にともなう絶対額の増加:保険料は「標準報酬月額×料率」で決まるため、料率が同じでも給与(標準報酬月額)自体が上がれば、天引きされる金額は増えます。近年の賃上げの流れは、額面収入とあわせて保険料の絶対額も押し上げています。
  • 社会保険の適用拡大:パート等の加入対象が広がったことで、社会保険料を負担する人自体が増えています。社会全体で見た保険料の総額(財源)は2019年度74.0兆円から2023年度80.1兆円へ増加していますが、これは一人あたりの負担が増えたというより、加入者数が増えた影響も大きいと考えられます。
  • 支え手(現役世代)の減少:65歳以上人口の割合(高齢化率)は2019年の28.4%から2023年の29.0%前後へ上昇を続けています。生産年齢人口(15〜64歳)も1995年の8,726万人をピークに減少が続き、2023年時点で7,400万人程度まで減っています。同じ給付水準を維持するために、現役世代1人あたりが支える金額は増えやすい構造にあります。

ちなみに国際比較で見ると、日本の社会保障支出の対GDP比(23.5%、2023年度)は、ドイツ(31.3%)やフランス(33.5%)より低い水準です。負担が重く感じられる一方で、給付の規模自体は主要先進国の中では大きい方ではない、という視点も参考になると思います。

つまり「保険料率が上がり続けている」というより、「賃金の絶対額」「加入者数」「支え手の割合」という複数の要因が組み合わさって、負担感が増している、というのが実データに基づく結論です。

医療費の負担を巡る2026年の政策動向

処方薬と聴診器、医師が処方箋を書く様子

ここまで見てきた「保険料率」自体はほぼ横ばいでしたが、医療を受けるときの窓口負担や薬の自己負担については、2026年に入って具体的な制度改正が動いています。給付の総額を減らす話ではなく、「誰がいくら負担するか」という配分を見直す動きです。

  • 高齢者の自己負担割合の見直し:現在、75歳以上の医療費自己負担は原則1割で、一定以上の所得がある人だけ2割・3割です。2026年4月、財政制度等審議会は70〜74歳を3割に、75歳以上も同一の負担割合とする制度改正の工程表策定を政府に提起しました。2026年7月に閣議決定された「骨太の方針2026」では「原則3割」という明記こそ見送られたものの、「年齢によらない真に公平な応能負担を実現する観点から見直しを行う」との方針が盛り込まれ、2026年末までに改革工程表を策定するとされています。日本医師会や保険医団体は強く反対しており、受診控えによる重症化を懸念する声も根強く、2026年9月時点で法改正はまだ成立していません。
  • OTC類似薬の保険給付見直し:市販薬と同じ成分の医療用医薬品(湿布・花粉症薬・保湿剤・便秘薬など77成分・約1,100品目)について、2026年5月に健康保険法等改正法が成立しました。2027年3月から、薬剤費の25%を「特別の料金」として患者が追加負担する仕組みが始まります。保険適用そのものがなくなるわけではなく、子ども・低所得者・がん患者などは対象外です。
  • 高額療養費制度の自己負担上限引き上げ:2025年春に患者団体の反対で一度凍結されましたが、2025年12月24日、政府は所得に応じて自己負担の上限額を4〜38%引き上げることを改めて決定しました。2027年8月までに段階的に実施される予定で、保険医団体の反対運動は今も続いています。

いずれも医療費・介護費の総額そのものを減らす改革ではなく、「誰がいくら負担するか」という配分を見直すものです。反対論も根強く、実施時期や内容が今後変わる可能性もあります。

社会保険料に関するFAQ

Q1. 今後も保険料率は上がり続けますか?

健康保険料率・厚生年金保険料率はここ数年横ばいで、2026年度は健康保険料率がむしろ引き下げられます。介護保険料率は毎年見直されるため、給付の状況次第で上下します。「今後も一直線に上がり続ける」と断定できる根拠は、直近5年のデータからは見当たりません。

Q2. 少子高齢化の影響はどこに一番出ていますか?

年金より、医療・介護の給付費の伸びに強く表れています。特に介護はコロナ禍の影響を受けずに一貫して増加しており、今後も高齢化の進展にあわせて伸びが続くと考えられます。

Q3. このデータを知って、何か対策できることはありますか?

保険料率そのものは自分でコントロールできませんが、給付の中身を知っておくことで「払った分をきちんと使う」ことはできます。社会保険は何を守ってくれる?会社員・公務員・自営業で異なる5つの保障で紹介した傷病手当金・高額療養費・育児休業給付金などは、知らないと使い忘れがちな給付です。負担への理解と、給付を使いこなす知識はセットで持っておきたいところです。

まとめ

5年分のデータを見ると、「少子高齢化で年金の負担が増えている」という直感的なイメージとは異なり、年金のシェアはむしろ低下し、医療・介護の伸びの方が目立つ結果でした。保険料率自体も、健康保険・厚生年金はここ数年横ばいで、2026年度は健康保険料率が34年ぶりに引き下げられます。負担が重く感じる背景には、保険料率の上昇よりも、賃金の上昇にともなう絶対額の増加、加入者数の増加、支え手の減少という複合的な要因があると考えられます。あわせて、高齢者の自己負担割合の見直しやOTC類似薬の自己負担導入、高額療養費制度の上限引き上げなど、窓口負担の配分そのものを見直す制度改正も2026年に入って具体的に動き出しています。保険料率だけでなく、こうした負担配分の変化にも今後注目していく必要がありそうです。

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