副業を始めたものの、売上よりも機材代や仕入代、サービス利用料などの経費が多くなり、年間収支が赤字になることがあります。このとき気になるのが、「赤字でも確定申告は必要なのか」「本業の給与と相殺して税金を減らせるのか」という点です。
結論からいうと、副業が雑所得に当たる場合、その赤字は原則として本業の給与所得と相殺できません。一方、実態が事業所得に当たる場合には、一定のルールに沿って給与所得などと損益通算できる可能性があります。ただし、所得区分は本人が都合よく選べるものではありません。
この記事では、副業の年間収支が赤字になった会社員に向けて、確定申告の考え方と確認すべき注意点を順番に解説します。
最初に確認したい「売上」と「所得」の違い
副業の赤字を判断するときは、入金額だけを見るのではなく、年間の「所得」を計算します。所得とは、基本的に副業の収入から、その収入を得るために必要だった経費を差し引いた金額です。
たとえば、副業の売上があっても、業務用の道具、材料、発送費、販売手数料、通信費などの必要経費が売上を上回れば、計算上は赤字になります。ただし、支払ったものをすべて経費にできるわけではありません。副業と直接関係しない生活費や趣味の買い物は経費にならず、仕事と私生活の両方で使う費用は、合理的な基準で仕事分だけを分ける必要があります。
また、パソコンや高額な機材などは、購入した年に全額を経費にできず、使用期間に応じて少しずつ経費にする場合があります。入出金の差額だけで赤字と決めず、税務上のルールに沿って収支を計算することが大切です。
副業が雑所得で赤字なら確定申告は必要?
赤字だけを理由に申告する必要は通常ない
勤務先で年末調整を受けている会社員が、副業の雑所得を正しく計算した結果、赤字になったとします。この赤字だけを理由として、所得税の確定申告が必要になるケースは通常ありません。課税対象となる副業所得が生じていないためです。
ただし、「副業が赤字なら必ず申告不要」と一律には判断できません。医療費に関する控除などを受けるために確定申告をする場合、複数の勤務先から給与を受け取っている場合、年末調整されていない収入がある場合などは、別の理由で申告が必要または有利になることがあります。
副業報酬からあらかじめ所得税が差し引かれている場合もあります。この場合は、年間の税額を計算し直すことで還付を受けられる可能性がありますが、給与や各種所得を含む全体の状況によって結果が変わります。
所得税の申告と住民税の手続きは分けて考える
所得税の確定申告が不要でも、住民税について確認が必要になることがあります。住民税の申告方法や必要書類は自治体の案内によって確認するのが確実です。
特に、副業以外の所得がある、控除の追加を希望する、勤務先以外から受け取った報酬に関する資料があるといった場合は、住所地の自治体に相談しましょう。所得税の確定申告をすれば、その内容は通常、住民税の計算にも利用されます。

雑所得の赤字は本業の給与と相殺できない
所得税には、特定の所得で発生した赤字を、別の所得の黒字から差し引く「損益通算」という仕組みがあります。しかし、雑所得の計算で生じた赤字は、原則として損益通算の対象ではありません。
つまり、副業の収支が雑所得でマイナスになっても、本業の給与所得からその赤字を引いて、給与にかかる税金を減らすことはできません。雑所得の赤字を確定申告書に入れれば自動的に還付される、という仕組みではない点に注意が必要です。
また、その赤字を翌年以降の副業の黒字から差し引くことも、一般的な業務に係る雑所得では原則としてできません。今年の赤字は今年の雑所得の計算上で扱われ、翌年の利益を減らすために持ち越せるわけではないということです。
同じ雑所得内でも単純に合算できない場合がある
副業以外にも雑所得に当たる収入がある場合、「片方の赤字をもう片方の黒字から引けるのでは」と考えるかもしれません。総合課税として扱われる雑所得の内部では収入と必要経費をまとめて計算する場面がありますが、すべての雑所得を無条件で合算できるわけではありません。
取引の種類によっては、通常の雑所得とは異なる課税方法が適用され、別枠で計算するものがあります。投資や金融取引を含む場合は、副業報酬と一緒にせず、それぞれの課税区分を確認してください。
事業所得なら給与と損益通算できる可能性がある
副業の実態が雑所得ではなく事業所得に当たる場合、事業所得の赤字は、一定のルールに沿って給与所得などの黒字と損益通算できる可能性があります。その結果、給与から差し引かれていた所得税の一部が還付されることもあります。
ただし、副業を始めた本人が「赤字を給与と相殺したいから事業所得にする」と自由に決められるわけではありません。所得区分は、活動の実態を総合的に見て判断されます。
判断材料としては、主に次のような点が挙げられます。
- 利益を得る目的で、継続して活動しているか
- 一定の時間や労力をかけ、自らの責任で運営しているか
- 帳簿を付け、売上や経費を事業として管理しているか
- 取引先や顧客を獲得し、売上を増やす取り組みをしているか
- 収入規模や活動実態が、単発の小遣い稼ぎにとどまっていないか
開業に関する届出を提出したことや、本人が事業と呼んでいることだけで、必ず事業所得になるわけではありません。反対に、会社員の副業だから必ず雑所得になるとも限りません。形式よりも実態が重要です。
事業所得の赤字でも全額通算できるとは限らない
事業所得に該当しても、家事上の支出を経費に入れていたり、副業と私生活に共通する費用を合理的に分けていなかったりすれば、その部分は赤字の計算から除かれる可能性があります。実際には事業活動がほとんどなく、税負担を減らすために赤字を作っていると見られる状態も注意が必要です。
また、事業所得の赤字を翌年以降に繰り越す制度には、申告方法や期限などの要件があります。損益通算や繰越しを利用したい場合は、申告前に税務署や税理士へ確認すると安心です。

赤字になった年にやっておきたい実務
申告しない場合でも、収支の記録を捨ててはいけません。翌年の経営判断や税務上の説明に備え、次の手順で整理しておきましょう。
- 年間の売上を、請求日や入金日など適用する基準に沿って集計する
- 副業に必要だった支出を、領収書や利用明細と照合する
- 私生活と共通する費用は、使用時間や使用割合などの根拠を残して分ける
- 在庫や高額な機材があれば、その年に経費にできる金額を確認する
- 収入、経費、赤字額の計算過程を帳簿や一覧表に残す
領収書があるだけでは、事業との関係を説明できないことがあります。「何の仕事に使ったか」をメモしておくと、後から確認しやすくなります。請求書、契約書、振込記録、販売サイトの明細なども、収支の裏付けとして整理しておきましょう。
赤字だからこそ見直したい注意点
赤字の原因が先行投資なら、翌年以降に回収できる見込みを確認します。一方、毎月の固定費が売上に対して重い、価格設定が低すぎる、私生活の支出が混ざっているといった場合は、税務処理だけでなく副業の運営そのものを見直す必要があります。
会社員は、本業の就業規則も忘れずに確認しましょう。税金が発生しない赤字の年でも、会社への届出や競業避止、情報管理などのルールがなくなるわけではありません。
なお、本記事は執筆時点の一般的な制度・考え方を説明したものです。個別の取引内容や申告状況によって扱いが異なるため、最新情報は税務署や国税庁の公式情報でご確認ください。
FAQ
Q1. 副業が雑所得で赤字なら、確定申告をすれば給与の税金が戻りますか?
A. 原則として戻りません。雑所得の赤字は給与所得との損益通算ができないためです。ただし、副業報酬から所得税が差し引かれている場合や、別の控除を受けられる場合は還付の可能性があります。すべての所得と控除を含めて確認してください。
Q2. 開業に関する届出を出せば、副業の赤字を事業所得として扱えますか?
A. 届出だけで事業所得になるとは限りません。継続性、営利性、活動規模、帳簿の状況など、実際の働き方を総合して判断されます。区分に迷う場合は、仕事内容や収支資料を整理したうえで税務署や税理士に相談しましょう。



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